「声」も守られる ― 生成AIで顔や声を勝手に使われたとき、女性タレントが知っておきたい権利と請求

「声」も守られる ― 生成AIで顔や声を勝手に使われたとき、女性タレントが知っておきたい権利と請求

作成日:令和8年(2026年)10月1日(推敲版・国民審査と削除申出の追記を反映) 分野:note/Blogger投稿記事(くるくんプロジェクト)

「自分そっくりの声で、歌ったことのない歌が配信されている」「顔だけ別の動画に貼り付けられている」――生成AIの普及で、そんな場面を想像する人が増えています。

今回は、令和8年(2026年)8月に法務省の検討会が公表した報告書をもとに、顔や声を無断で使われたとき、どの権利に基づいて何を請求できるのかを整理しました。先にお伝えすると、この報告書は法律ではありません。現行法と判例の解釈を整理した、解釈指針です。

結論から言うと、「声」も人格の象徴として守られます

報告書は、人の声を、個人の人格の象徴として整理しました。最高裁が示した「肖像等」の枠組みに、声も含まれる、という立場です。

土台は、ピンク・レディー事件の最高裁判決(最判平成24年〔2012年〕2月2日)です。氏名や肖像は人格の象徴だから、人格権に由来して、みだりに利用されない権利がある、と述べています。

ただし、注意点があります。これらの権利は、条文に書かれていません。判例で形づくられてきた権利です。しかも、報告書は、生成AIによる無断利用には裁判例がなく、権利侵害となる範囲が不明確だとの指摘があった、と書いています。だから、今後の裁判所の判断には、まだ幅があります。

2つの権利を、分けて考えます

顔や声の無断利用には、性質の違う2つの権利が関わります。

・肖像等をみだりに利用されない権利(以下、肖像権等):心を守る権利です。精神的な価値を保護します。侵害かどうかは、本人の社会的地位、利用の目的や態様などを総合して、社会生活上我慢できる限度を超えるかで決まります。損害は、原則として慰謝料です。

・パブリシティ権:お金の面を守る権利です。顔や声が持つ、商品を売る力(顧客吸引力)を、他人が使えないようにします。侵害になるのは、専ら顧客吸引力の利用を目的とする場合です。具体的には、①肖像等そのものを鑑賞の対象となる商品として使う、②商品の差別化のために付ける、③広告に使う、の3類型が代表です。損害は、逸失利益が中心です。

報告書は、この2つは保護の対象と要件が違い、両方が成立する場合もある、と整理しています。

AIが作った「似ている」顔や声は、本人のものと言えるのか

ここが、生成AIならではの難しさです。AIが出力した顔や声は、通常、本人と完全には同じではなく、似ているにとどまります。では、本人の顔や声を「使った」と言えるのでしょうか。

報告書の答えは、似ている度合いに、付け加えられた情報を合わせて判断する、というものです。たとえば、タイトルや説明文、本人らしい服装や言動、出演を思わせる表示です。これらを総合して、見た人や聞いた人が本人だと見分けられるかを見ます。

声には、少し事情があります。声は、顔や名前より、見分けやすさが低い面があるとされています。それでも、判断の枠組みは顔と基本的に同じです。声紋鑑定のような科学的な分析は、考慮要素の一つにはなりますが、決め手にはなりません。

名前を出した投稿はどうでしょうか。たとえば「AI〇〇に歌わせてみた」というタイトルがあれば、歌声の似ている程度とあいまって、本人の声を使ったと判断されやすくなります。逆に、本人の名前が示されていても、聴いておよそ似ていなければ、本人の声を使ったとはいえません。

物まねや声まねは、通常は侵害になりません。ただし、本人を示すものと誤解されるような使い方なら、侵害になる余地があります。

学習データに本人の画像が含まれていなくても、結論は変わりません。指示(プロンプト)を調整して本人に似た画像を出力し、その人気を商売に使えば、侵害になり得ます。

では、たまたま似てしまった場合はどうでしょうか。肖像権等の側では、故意や過失の判断に影響し、似ている程度が高くなければ、我慢すべき範囲として考慮されます。ただし、公表前に似ていると気付いたときや、公表後に気付いたのに公開を続けたときは、侵害になる場合があります。本人に似せる意図があったときは、「たまたま」とはいえません。

どんな請求ができるのか

① 損害賠償

実際の金額を、報告書が整理した裁判例で見てみましょう。パブリシティ権の侵害では、本人が通常受け取る使用料に当たる額を基礎に、損害を算定する事案が多くあります。

・書籍の無断出版:306万円から781万円の算定例があります(嵐ら事件)。

・ウェブサイトへの肖像の掲載:月10万円とした例があります(Ritmix事件)。

・グッズ販売:1人当たり1万2000円とした例があります。

・広告への使用:19日間で47万5000円とした例があります。

このように、金額は事案によって大きく違います。だから、普段どんな条件で顔や声を使わせているかという契約の記録が、損害を立証する土台になります。

なお、パブリシティ権の侵害に慰謝料を認めた裁判例は、ピンク・レディー事件以降、見当たらないと整理されています。心の傷への賠償は、肖像権等の側で問題になります。

② 削除請求

インターネット上の投稿は、違法と認められる場合には、削除請求が認められる傾向にあります。投稿者だけでなく、SNSなどのプラットフォーム事業者にも請求できると考えられています。報告書は、その根拠として、ツイッター事件の最高裁判決(最判令和4年〔2022年〕6月24日)で運営主体が直接の相手方とされたことなどを挙げる学説を引いています。

ただし、削除の範囲は、違法な部分に限られることがあります。東京地裁は、SNS動画の投稿について、動画全体ではなく、動画中の顔写真の削除を命じました(東京地判令和6年〔2024年〕11月18日)。

実務では、裁判の前に、事業者の削除申出の窓口を使う方法もあります。大規模なプラットフォーム事業者には、令和7年(2025年)4月から、削除への対応に関する義務が課されています。

③ 差止め

差止めには、必要性が要ります。侵害者が今も使い続けている、侵害を認めていない、といった事情があれば、必要性が認められやすくなります。逆に、すでにやめていて将来のおそれが乏しい場合は、認められません。

週刊誌の例が参考になります。女性芸能人の顔写真を使った合成記事の事件で、知財高裁は、週刊誌の店頭販売は発売日からの1週間に限られるのが原則だとして、差止めと廃棄の請求を棄却しました(知財高判平成27年〔2015年〕8月5日)。損害賠償だけが認められています。

性的な合成は、特に強く守られます

報告書は、本人の顔と他人の裸の画像を合成した画像について、肖像権の侵害が成立する可能性が高いとしています。声でも同じです。本人の声でわいせつな文章を読み上げる音源も、声をみだりに利用されない権利の侵害になる可能性が高いとされています。

実際にどう判断されているか見てみましょう。先ほどの週刊誌の事件です。裁判所は、強い羞恥心や不快感を抱かせるとして肖像権の侵害を認め、慰謝料を75万円と算定しました。報告書は、生成AIの画像は、画像編集ソフトによる合成とは比べものにならないほど精巧だとして、侵害と評価される可能性が高いとしています。

・保護の対象が名誉感情や私生活の平穏のときは、本人が自分のことだと認識できれば足ります。名誉やプライバシーが問題のときは、見た人が本人と分かることが必要です。ただし、およそ本人とはいえないほど似ていなければ、侵害は認められません。

・収益目的がなくても、侵害の成否に直ちに影響しません。

・被害者が一般人でも、芸能人の場合と大きな差は生じにくいとされています。

・本人の活動範囲を考慮すべきだとの意見がありました。ただし、アダルト作品への出演経験があっても、直ちに権利侵害が否定されるわけではない、との意見も示されています。

・慰謝料を考える際は、生成の精巧さや、SNS上の拡散の程度が考慮要素になり得ます。

・削除は、投稿者とSNS運営事業者の双方に求められると考えられています。

収益目的がなくても、安心はできません

「お金儲けではなく、興味本位で作っただけ」という場合はどうでしょうか。報告書は、2つの権利で分けて考えています。

・心を守る権利:収益目的がないことは、侵害を否定する方向の要素になるとは考え難い、とされています。保護の対象になる利益として、自分の顔や声を他人の管理下に置かれたくないという精神的利益と、していないことをしたかのように受け取られない利益(自己像の同一性)が挙がっています。

・お金を守る権利:収益目的がなければ、商品とはいえず、3類型には直接当たりません。ただし、フォロワーや再生数を増やす意図で投稿し、本人に営業上の不利益を現に生じさせたと認められるときは、3類型に準ずるものとして、侵害と評価し得るとされています。

報告書は、人気のあるタレントは、人気を保つために露出を一定の範囲に抑えて管理していることが多く、大量の肖像が拡散されると、その価値が傷つく、という検討会の指摘を紹介しています。また、投稿に自分の商品を載せたり、販売サイトへの案内を付けたりして視聴者を誘導すれば、広告として使ったものと評価される可能性があります。

ただし、反対の立場もあります。商品に使っていない場合に3類型に準ずると考えるのは難しい、という意見です。見解は一致していません。

AIを作る側、提供する側の責任はどうなるか

利用者だけでなく、生成AIを提供する事業者の責任も、報告書は扱っています。

・AIのサービス自体は「肖像等」ではありません。ただし、著名人にそっくりの顔や声を簡単に作れることをセールスポイントに、有償で提供する場合は、侵害になると考えられています。差止めもできます。

・利用者が侵害したとき、提供事業者も、権利侵害の発生に寄与したと評価されれば、共同不法行為(複数の者が共同で損害を生じさせた場合の責任)として、連帯して賠償責任を負う可能性があります。侵害の可能性を減らす措置を取っていれば、責任が認められにくくなる方向に働きます。

・特定の俳優や声優に特化した学習用データセットの販売は、侵害に当たり得ます。

・学習させる行為そのものが侵害になるかは、意見が分かれました。ただし、提供行為などの侵害を予防する必要があるときは、侵害予防の請求ができると考えられています。

事務所との契約が、権利の行使を左右します

パブリシティ権の請求は、原則として本人が行います。では、所属事務所と契約があるとき、どうなるのでしょうか。

・独占的な利用許諾の約定がある場合:事務所は、一定の場合に、債権侵害(契約上の権利の侵害)を理由とする損害賠償を請求できる可能性があります。少なくとも、現実に市場を独占していて、警告をしても侵害が続いているときです。

・差止めの代位行使(事務所が本人に代わって請求すること):本人が事務所に侵害を排除する義務を負う、例外的な場合に限られます。

・権利を譲渡する約定がある場合:譲渡できるかについて、見解は分かれています。東京地裁は、事務所の利益を守る必要性、本人の不利益の程度、代わりの措置の有無を考えて、合理的な範囲を超えて本人の利益を縛るなら、公序良俗に反して無効になり得ると判断しました(東京地判令和4年〔2022年〕12月8日)。

検討会は、譲渡を否定する立場に立っても、約定が直ちに無効になるわけではないと整理しています。公序良俗に反しない範囲で、独占的な利用許諾と読むという考え方です。

不正競争防止法の面では、本人の顔や声が、事務所の周知又は著名な商品の表示になっている場合に、事務所が自ら差止めと損害賠償を請求できることがあります。ただし、投稿に「本人とは無関係」と書かれていると、混同の要件が否定される方向に働くことがあります。著名な表示を冒用する類型は、この打消しがあっても否定されません。

なお、報告書の「終わりに」は、本人とは別の者(所属事務所など)による請求の可否について、検討会の見解が一致しなかったと書いています。事務所が請求できるかは、契約の内容と、今後の議論に左右されます。

公正取引委員会の調査も紹介されています。調査に回答した芸能事務所のうち、実演家のパブリシティ権を事務所に譲渡又は帰属させている事務所は、59%でした。だから、自分の契約書にどう書かれているかを、自分で読んでおくことが大切です。

この指針には、限界もあります

・法律ではなく、解釈の整理です。裁判所を拘束するものではありません。

・見解が一致しなかった論点があります。生成AIの学習行為が侵害に当たるか、権利を譲渡できるか、相続できるかです。

・心の傷への賠償は、原則として慰謝料です。慰謝料が低額になりやすいという課題は、この分野にも残ります。

・法務省は、不法行為法全体の見直しを検討する研究会も始めました。人格権の一般的な規定や、差止請求権の明文化が、検討事項に挙がっています。知的財産推進計画2026(令和8年〔2026年〕6月12日決定)も、不正競争防止法の改正を含む法整備を、引き続き議論するとしています。いずれも、結論は出ていません。

個別の裁判で壁に当たったとき、制度に意思を示す道もあります

慰謝料の金額は、個別の裁判では、なかなか変えられません。それでも、制度に対して意思を示す道はあります。

・国民審査:最高裁判所の裁判官は、衆議院議員総選挙の際に審査を受けます(憲法79条2項・3項)。辞めさせたい裁判官に×を付け、有効投票の過半数になると罷免されます。ただし、対象は最高裁の裁判官だけです。慰謝料の金額を主に決める地裁・高裁の裁判官は、対象になりません。これまでに罷免された例は、ありません。

・不信任率の推移:令和6年(2024年)の審査では、6人全体の×印の割合が10%を超え、約30年ぶりの高水準でした。令和8年(2026年)2月の審査も、2人とも10%を超えました(高須順一裁判官14.15%、沖野真已裁判官13.73%)。

・選挙:慰謝料の算定基準を法律に書くかどうかは、国会と、法務省の研究会の議論に関わります。研究会の資料は、法務省のウェブサイトで確認できます。

では、×印は、圧力になるのでしょうか。見方は分かれます。国民審査に詳しい教授は、高い不信任率が出たことで、裁判官も一層「国民にみられている」と感じるようになるはずだ、と分析しています。他方、不信任率の上昇が、判決や慰謝料の相場を変えたという資料は、確認できていません。票には理由が書かれないため、×印の理由も分かりません。

【筆者の意見】個別の裁判で壁に当たったときに、国民審査や選挙で意思を示すことは、制度に対する正当な意思表示の一つだと考えます。ただし、その効果は、まだ実証されていません。

どの裁判官に、どう投票するかは、各自の判断です。判断の材料として、裁判所のウェブサイトで、裁判官が関わった判決や補足意見を確認できます。

女性タレントが押さえておきたい4つの視点

・声も、顔と同じく、人格の象徴として守られる。ただし、生成AIの事案には裁判例がなく、範囲には幅がある

・心を守る権利と、お金を守る権利は、別物で、両立する。請求できる内容も違う

・見つけたら、日時とURLを記録しておく。損害の立証には、普段の使用条件の記録も役に立つ。削除請求は、プラットフォーム事業者にも向けられると考えられている

・事務所との契約書の、利用許諾と譲渡の条項を、自分で読んでおく

見えにくい法律の仕組みほど、いざというときに困るものです。顔や声を守る道具があることを、先に知っておくだけで、慌てずに動けるはずです。

本記事は、法務省の検討会が公表した報告書(解釈指針)に関する一般的な整理であり、特定の人物・事例を想定したものではありません。法律の専門的助言ではなく、実際の対応にあたっては、弁護士等の専門家への相談をお勧めします。

出典

法務省「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会 取りまとめ報告書―生成AIによるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針―」(令和8年〔2026年〕8月)本体及び【概要資料】(本体は、第1章、第2章の想定事例1から7、補論、終わりにを本文で確認。裁判例の内容は、報告書に引用された記載による)。最判平成24年〔2012年〕2月2日・民集66巻2号89頁。最判令和4年〔2022年〕6月24日・民集76巻5号1170頁。特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律(令和6年法律第25号による改正、令和7年〔2025年〕4月1日施行)。国民審査の結果は、令和6年〔2024年〕10月の審査と令和8年〔2026年〕2月の審査について、日本経済新聞と時事通信の報道(令和8年2月9日付を含む)による。

SNS投稿用帰属文

🧡 Claudeとの対話をもとに作成。🧡 ClaudeはAIであり、間違えることがあります。回答内容は必ずご確認ください。

アイキャッチ画像プロンプト

日本語
水彩・イラスト調、パステルトーンの絵本風イラスト。中央に、小さなマイクのモチーフと、顔のない人物の肖像画の額縁(顔立ちは描かず、やわらかなシルエットのみ)を並べて配置し、その二つを、半透明のやわらかなドーム状の光がそっと包んで守っている構図。文字、ロゴ、特定の人物と分かる顔は一切描かない。片隅に控えめに、白い足先と鼻周りが特徴のグレーのアメリカンショートヘア(シルバークラシックタビー、控えめな縞模様のある品種らしい柄)と、小さなイチゴの実と花を添える。全体的に落ち着いた、守られている安心感のある温かい雰囲気。横長、アスペクト比1.91:1(幅1280px×高さ670pxを想定)、PNG形式。

English
A soft watercolor, picture-book style illustration in pastel tones. At the center, a small microphone motif and a faceless portrait frame (soft silhouette only, no facial features) placed side by side, gently enclosed and protected by a translucent, softly glowing dome of light. No text, no logos, no recognizable faces. In a corner, subtly include a gray American Shorthair cat with a classic silver tabby pattern (breed-authentic soft swirled markings) and white paws and nose markings, along with a small strawberry fruit and blossom. Overall calm, warm, and reassuring mood. Wide horizontal format, aspect ratio 1.91:1 (designed for 1280x670px), PNG.
(Gemini画像生成令和8(2026)年10月4日).







🧡Claude chat title:週刊誌の売上低下と対抗策

(参照投稿令和8(2026)年10月5日).

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【法解説】女性タレントを脅かす悪質スキャンダル被害——低い賠償額の壁と裁判所で戦い抜く「鋼鉄の論理」|KurukunTwitte 🍓 https://note.com/kurukuntwitte/n/nbe0b45c307be
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#女性頑張れ #高市早苗 #永野芽郁 
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KurukunTwitte🍓Blogger: 【法体系等】(メモ)|⚖️ KurukunTwitte 🍓 https://kurukuntwitte.blogspot.com/2026/05/blog-post_14.html?spref=tw

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